
Evgeny Yudin
著者
資格: International Health Access Consultant
役職: Founder of Pillintrip.com
会社: Pillintrip.com – International Health and Travel

はじめに
多発性硬化症(MS)との生活は、それ自体がフルタイムの仕事のように感じることさえあります。そこに旅行や引っ越しが加わると――新しい環境、新しい習慣、時には新しい言語も――気分が落ち込むのは不思議ではありません。日本の患者調査や国際的な研究によると、MS患者の半数が抑うつを経験し、約3分の1は不安症状を抱えています (NCBI, 2024)。
しかし希望はあります!複雑な治療プログラムや高価なリトリートに頼らなくても大丈夫です。小さな行動を地道に続けることが、世界中どこでも、気分を高めて日常を過ごしやすくできる――科学的に証明されています。
新しい都市への適応、日本国内外を移動する時差調整、あるいは日常でバランスを目指すときも――このシンプルなヒントはどんな暮らしにも役立ちます。

1. 体を動かす:運動は薬
ジムやマラソンを目指す必要はありません。動くこと自体が薬です。定期的な運動はエンドルフィン、セロトニン、ドーパミンを分泌し、脳の「元気スイッチ」を入れます。
日本でも、ウォーキングやラジオ体操、水泳など身近な運動を続けるMS患者は、抑うつ症状が52%少ないと言われています (NCBI, 2024)。ほんの短時間でも効果があり、10分の散歩やホテルでのストレッチ、市民プールでの泳ぎなども立派な運動です。
旅行・外出時のヒント:
- タクシーの代わりに散策や歩いて観光を楽しむ。
- ホテルや自宅でヨガや簡単なストレッチをする。
- 自重を使った運動(スクワット、プランク、腕立て伏せ)なら器具不要。
- 疲れを感じたら短時間(5分だけでもOK)から始めましょう。
有酸素運動も筋トレも、どちらも効果的です。体の罰ではなく、脳への「栄養補給」と考えて行いましょう。
2. 日光を浴びる:ビタミンDと自然光
日光は心を温めるだけでなく、気分を高める生物学的なブースターです。ビタミンDは神経の健康を支え、気分の調整にも役立ちます。朝の日光は体内時計を整えてくれます (Overcoming MS, 2025)。
日本では梅雨や冬の曇りの日、北日本など日照不足が疲労や気分の低下を招きやすくなります。次のことを試してみてください:
- 毎朝15~30分、できる限り自然光を浴びる。
- 仕事や観光の間に小さな屋外休憩を挟む。
- 暑さに弱い方は、涼しい朝や夕方に外へ出る。
- 必要なら医師にビタミンDのサプリメントについて相談しましょう。
旅行時差のときは、到着先の朝日を効果的に使ってください。新しい土地で朝散歩すると、コーヒーより早く体がリセットされます。
3. つながりを持つ:社会的サポートの力
新天地や一人旅では孤独を感じがちです。しかし研究では、MS患者が人と関係を保つことで、心身の健康が向上することが分かっています (National MS Society, 2020)。人とつながることは、実際に回復を後押しします。
日本でできる実践例:
- オンラインMS支援グループに参加(日本MS協会も活用可)。
- 全国・地域のMS患者会、障がい者コミュニティを探す。
- 定期的に家族や友人とビデオ通話をする。
- ヨガやアート教室、語学交換などのグループ活動に参加。
- ボランティア活動に挑戦する(人の役に立つことで気分も向上)。
大切なのは量より質。真剣な会話が1回でもあると、新しい環境で安心できるものです。
「薬は使っているけど、本当に助かるのは運動・自然・心理療法・創作活動を組み合わせること」とMSで暮らすRedditユーザーが語っています (ソース)。
旅行や新生活で気分が揺れるのは普通のこと。どこから始めたらいいかわからない時は、米国多発性硬化症協会(MSAA)の短い動画を観てください。日々のセルフケアや気分管理のコツが、日本でも実践できる内容で紹介されています。大事なのは小さな成功体験とサポート、人とのつながりです。一度に全部できなくても大丈夫。
4. 書くことで解放:感情の日記
書くことは予約不要のセルフセラピーです。日記をつけると不安が減り、睡眠の質も向上し、辛い気持ちを整理できます (Cleveland Clinic, 2025)。
日本でもMS患者にとって、旅や引っ越し時の気持ちの安定に役立ちます。おすすめの方法:
- 感情表現日記:文法は気にせず、ありのままを書き出す。
- 感謝日記:毎晩、よかったことを3つ記録する。
- 症状記録:疲労や体調変化、引き金になる出来事をメモ。
- 旅日記:思い出や感じたことを書き残す。
寝る前のたった10~15分で大きな変化を感じるはずです。紙とペンだけで十分ですが、飛行機移動ならメモアプリもおすすめ。
5. マインドフルネス:小さな穏やかな時間
マインドフルネスは長時間の瞑想や沈黙を要求しません。呼吸、身体、目の前の景色をそのまま感じることがポイントです。
日本でも広まりつつあるマインドフルネスは、MS患者の抑うつ・不安・疲労軽減に役立つことが分かっています (National MS Society, 2020)。どこでも取り組めます:
- 深呼吸:迷走神経を刺激する呼吸法(4秒吸って、6秒吐く)。
- 5分瞑想:ベッドの上や飛行機内、窓際などで。
- ボディスキャン:筋肉のひとつひとつがリラックスするのを意識。
- マインドフル・ウォーキング:新しい街の音・質感・香りに集中する。
実践のコツ:旅行前に瞑想アプリや音声ガイドをダウンロードしておくと、Wi-Fiがなくても使えて便利です。
「定期的な瞑想の時間がなくても、呼吸法だけは身につけるべき。効果は抜群」と別のRedditユーザーが教えてくれました (ソース)。
6. 自然とふれあう:グリーンセラピー
自然とのふれあいは無料のセラピーであり、科学的にも効果が証明されています。屋外で過ごすことでコルチゾール(ストレスホルモン)が減り、炎症が緩和し、気分が上がります (Cleveland Clinic, 2025)。
森や山に入る必要はありません。30分だけでも、近所の公園、緑道、河川敷や海辺など屋外で過ごせば、神経システムが落ち着きます。
旅先でおすすめの活動:
- 都市公園や植物園を訪問(新宿御苑や京都府立植物園など)。
- 近所のウォーキングコースを歩く。
- 川べり、湖畔、海岸でのんびりする。
- 自然の中で軽く体を動かし、ダブル効果を得る。
引っ越し後は、地域の緑地や公園を巡る習慣から新たな生活リズムを作りましょう。日本では四季折々の自然も気持ちを整える助けになります。
7. ストレスを能動的に管理:どこでもできるCBTテクニック
認知行動療法(CBT)は、うつや不安の緩和に最も効果的な手法のひとつです。基本的なテクニックは自宅でも旅先でも実践できます (Cleveland Clinic, 2025)。
すぐできるストラテジー:
- 思考のクセに気づく:「もし…だったらどうしよう?」と考え始めたときに意識する。
- 置き換え:「この引っ越しは無理だ」→「少しずつ順応している」と言い換える。
- 悩みすぎず、解決に注目:小さな具体的な行動をひとつだけ選ぶ。
- 行動活性化:気分が乗らなくても、何か楽しいことをしてみる。
- DeprexisやMoodGYMなどオンラインCBTプラットフォームは、日本でも使える自己管理ツール。専門医につながるまでのセルフケアに最適です。
8. ボーナス:毎日の小さな習慣が大きく効く
よくある身近なことほど、いちばん効果があります:
- 寝る時間と起きる時間を一定に保つ(規則正しい生活リズム)。
- 寝る前のスマホ・PC画面の使用を減らす。
- リラックスできる空間づくり:キャンドルや好きな音楽を活用。
- カフェインは控えめに。不安を悪化させる場合も。
- こまめに深呼吸やストレッチの時間を取る。
- 1日1つだけ達成できる具体的な目標を設定してみる。
- 小さな達成を祝う――それが積み重なることで本当に役立つ。
大切なのは、急に全部変えようとしないこと。少しずつ新しい習慣を増やしていくことで、いつの間にか心身も安定します。
まとめ
MSと共に、旅や新しい生活を始めるとき、求めるべきは「完璧」ではなく「実践力」です。
動くこと、日光、つながり、日記、マインドフルネス、自然、毎日の小さな成功――これら全てが心と体を穏やかに整えてくれます。一緒にやることで、日本国内外どこでも使える「安定のリズム」が生まれます。
まずは今日、1つ始めてみましょう。来週になったらもう1つ追加を。時間をかけて習慣を積み重ねれば、旅先でも新天地でも自分らしさと安定を保てます。

もし抑うつ症状が重く、ひとりで抱えきれなくなった時は、ためらわず医療機関に相談しましょう。日本全国、どこでも専門家の助けが得られます。ひとりで悩まないでください。
FAQ:MSでの旅行中の気分・メンタルケア
1. なぜMSは気分に強く影響する?とくに旅や引っ越し時は?
多発性硬化症は、神経だけでなく脳と体をつなぐすべてのシステムに作用します。炎症や病変が脳の感情をコントロールする領域の信号を妨げることで、理由がなくても抑うつや不安が現れるのです。さらに、疲労や痛み、動作の制限などによって、服を着る・外に出るなど、ちょっとした行動でも気力を奪われることがあります。
旅や移住が加わると、感情的な負担は何倍にもなります。慣れ親しんだ習慣や医師、家族・友人と離れ、時差や生活環境の変化で睡眠や気分のコントロールも乱れやすくなります。だからこそ、日本国内でも海外でもMS患者は気分のアップダウンが起こりやすいのです。
こうした経験を「普通」と受け止めること、そして事前に備えることが大事です。日常の安心できるルーティンを持ち歩き、現地に過剰な期待をしすぎず、順応するための時間が必要だと自分に言い聞かせる――それは弱さではなく、適応力です。
2. 本当に運動で気分は良くなる?疲れてしまっても大丈夫?
本当にその通りです。MS患者は運動することで気分が大幅に改善することが証明されています。2024年のNCBIメタ解析によれば、定期的な運動はうつの症状を50%以上改善します。無理せず、続けられる範囲で習慣化することが大切です。運動は血流を促進し、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質を活性化。睡眠も助け、安定した気分へと導きます。
ただし、疲労は現実的な課題です。まずは短時間から始めてください:5分の散歩やストレッチ、軽いヨガでも十分効果的です。頻度重視で、朝と夜に10分ずつ――旅先でも実践できます。
運動は、必ずしも「トレーニング」らしいものでなくてもOK。新しい街を散歩したり、プールで泳ぐ、小さな家事でもかまいません。楽しく続けられる形が1番です。
3. いつものサポート体制がないとき、どうやって不安を乗り越える?
海外や新しい土地で不安と向き合うのは簡単ではありません。慣れない医療機関・カウンセリングのハードルもあります。ですが、多くの方法はどこでも使えます。呼吸法とマインドフルネスは空港でも宿泊先でもできるので、ぜひ実践しましょう。特に迷走神経呼吸法(4秒吸って6秒吐く)は、すぐに神経を落ち着かせる効果があります。
デジタルで「自分だけのサポートネットワーク」を再構築するのもおすすめ。日本MS協会や複数のSNSグループ、家族と定期的なビデオ通話を活用しましょう。研究でも、人間関係はMS患者の気分や体調に直接良い影響を与えます。画面越しでも「分かってもらえる」経験は不安に大きく効きます。
不安が続くなら、MoodGYMやDeprexisなどのオンライン心理療法も検討できます。こうしたCBTプログラムは科学的根拠があり、日本からも利用可能です。ほんの短時間でも、否定的な考え方を見直し、困難な状況で自分自身を強く保つ助けになります。
4. 旅行や時差が多いとき、安定した気分を保つには?
旅をすれば、睡眠・食習慣・日光浴・人との交流など、心身の調和を支えるすべてが揺らぎます。MS患者にとっては、これらの変化がより強く影響することも。いちばんのコツは、生活リズムの維持です。時差があっても寝起きの時間はできるだけ守る、到着地の朝日で体内時計をリセットする――Overcoming MSの研究でも、日光がビタミンDや気分の安定に直結することが示されています。
旅先でも使える「ミニ習慣」づくりがおすすめ:夜の10分日記、朝のストレッチ、移動の合間のマインドフルネス。こうした小さなアンカーが、環境が変わっても気持ちの安定につながります。
自然の力も忘れないでください。30分程度でも屋外で過ごすだけで、ストレスホルモンが下がり気分もリセットされます。新しい町ごとに公園や緑地を探す習慣を持てば、旅や引っ越しでもリラックスしやすくなります。